創作ノートより「ふつうの話」1988.5.21。

お酒を飲んだりする。男と女がいる。両者ともども、若々しい。ドレスアップ、引き合う会話。何かを望んでいるが、その何かがわからない。とりあえずふたりでいようじゃないか。いずれ仲間からはずれてちりじりばらばらに暗い所に消えてゆくのだから。彼らの中には理論物理学者だって、精神科医だってうまれることだろう。ロックを聞いて、クラシックを聞いて、映画を見て、遊園地にだって行く。難民は救済されるべきだと発言できるし、差別はよくないといえもする。それだから戦わずにいい。誰かがきっとやってくれるからだ。
 むきになってやるほどのことじゃない。まあまあ、そこらでかんべん願えないか。これは2人の間での会話。外交向きじゃない。パーティー向きであるが、酒のアテにはいいが、自分とは関係のないこと。かかわりあうのはごめんだ。
 ぼくと彼らの橋は、生きているのだ。この橋は長大で、もろい建材でできている。
 ぼくは喪服をまとい、素足で、この長い距離を行き来する。死体の浮かんだ川の上の橋。ひどい匂いのする橋の上で、ぼくは時々足をすべらしそうになる。

 白菊の花輪を投げて、ぼくは花輪にいちべつをくれる。太陽と影と、夜と月と星。ぼくの背後に隠れる、あの死神は、ゆうべもぼくの枕元にやって来た。夢を切りさく長いつかのナイフをかざし、死神は白いベールをまとってやってくる。この橋をまぼろしに変える、そのようにすれば、ぼくはこの川の中に落下するに決まっている。この腐臭の中に、深くすいこまれて、2度と再び、ぼくは橋の上を歩くことはない。ぼくの見ている、水死体の仲間入りをはたすのだ。

                                 1988.5.21 ノート完



1988年3月4日に書き始めったノート、大学ノート80ページが、1988年5月21日にすべて文字で埋まっている。このノートに書かれた時期は、おそらくカメラマン時代のものだ。中には小説が頓挫しているものの、なかなかいい物が見つかっている。ただし、掌編ではあるが、そこそこ長い物なので、タイピングが煩わしいので、ブログには掲載しなかった。これから先に掲載するかもしれぬが、それは先、先なのだが、掲載してみようという気が今のところないので、藪の中ということにしておこう。
by ningenno-kuzu | 2012-11-03 14:46 | 創作ノート | Comments(0)

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